宮沢賢治学会主催のイーハトーブ賞を
むのたけじさんも 受賞されていた事は
下記の本を読んで知りました。
老記者の伝言 日本で100年、生きてきて
むのたけじ
聞き手・木瀬公ニ 「朝日文庫」
219ページ
賢治に尻ひっぱたかれた 2012年9月21日
岩手県花巻市が22日に、宮沢賢治にちなんだ【イーハトーブ賞】をくれるんだって。
賢治に直接関係なくても文化活動で頑張っている人を励ますという意味のようですね。
連絡を受けたとき、なんで俺に、と驚きました。きょとんとしちゃった。
文筆の仕事で賞をもらうことなんて考えたこともなかったから。どうすればいいのか
迷いましたな。
自分が書いた文章を読んでくれる人はいる。でもそれが役に立っているのかが疑問
でしたから。
だって世の中をよくしようと書いているのに、悪くなる一方でしょ。
人類は滅亡の方向にどんどん向かっていて、どこにも夜明けの光が見えてこないでしょ。
私は、ほめられるようなことをしていないのよ。
それと、フランス人の文学者のサルトルね、彼はノーベル文学賞を断っているんだ。
私が知っている範囲ではこんな理由だった。【物書きにとっては読んでくれる読者が
いることほどありがたいことはない。それが最高の賞だ。それをすでにもらっているから、いまさら次の賞をもらう必要はない。】
まったくその通りだと思ってきたんだ。俺にも、ともかく一生懸命読んでくれる人がいる。これでいいわけですね。
しかし、賢治の名前がついた賞だと、何となく仲間だなという気がするの。
これまでも自分が住んでいる秋田県横手市の市民文化功労賞と、岩手の農民大学から
農民文化賞をもらったのも、仲間のような気がしたからなんです。
私は東北に居住して地域社会の出直し、特に農業問題を中心に活動してきたわけです
それで【イーハトーブ賞】は【年とっても頑張っている。そのまま死ぬまで頑張れ】
っていう励ましだと受け取って、もらうことにしたんだ。
同時に賢治に尻ひっぱたかれたような気がしてな。おまえは97歳になって間もなく
死ぬ。その前にあと一冊、若い世代に残す遺言みたいな本を書こうとしているようだが、命がけで書け。そう言われた気がしたんだ。
その本が、若い世代に受け入れられるかどうか。受け入れられれば未来にのこる。
役に立たないと思われれば捨てられる。いつも試されているんだな。
賢治にしたって同じことでしよう。37歳という短い一生の中で全国に大勢のファンを
持つだけの仕事をやった。しかしこれまでの読者とはまったく異なる新しい世代が生まれてきた。彼ら15歳前後の子供たちが、賢治じいさんんの文章をどう受け止めるか。
読み継がれるか捨てられるか。
私の命がけの最後の仕事とそれが重なり合った。死に物狂いでやるしかないな。
むのたけじ 「武野 武治」
1915年秋田県生まれ。ジャーナリスト 文筆家。東京外国語学校「現東京外国語
大学」スペイン語科卒。報知新聞を経て朝日新聞記者となり、中国、東南アジア特派
員などで活躍。45年8月15日の敗戦を機に戦争責任を感じて退社
48年秋田県横手市で週間新聞【たいまつ】を創刊。78年まで主筆として健筆を
ふるった。以降は著作、講演などで活動。2016年8月、101歳で逝去。
【たいまつ十六年】 【希望は絶望のど真ん中に】 【99歳一日一言】など
著作多数。
この本は 硲伊之助美術館 館長 硲紘一さんが送ってくださいました。
2022.10.3