【 雑木林のパンやさん】 物語

雑木林のパンやさんは、火曜日と木曜日は14年間、土曜日のみは3年間営業していました。17年間、たくさんのお客様に来ていただき、2008年6月末に閉店しました。

ともだち クレヨンハウス絵本大賞最優秀賞受賞

 ⁂ 絵本【ともだち】は

   雑木林のパンやさんの開店祝いとして

   チルクリ【子どもの本屋さん】で働いていた 川崎昭子さんから

   ・・・・歳をとったら この絵本のように会いたいねー・・・・

   というメッセージ付きで 頂いた絵本なんです。

   その川崎昭子さんは 2013年に天国へ逝かれました。

   この絵本の物語のように・・・

   【明日10時 そこに集まるって いうのはどうかしら】 なんて・・・

   電話をしたかったです。

 

 

 

 

   まずは 2丁目のトラゾウさん

   ほら きょうも 郵便受けのまえを 行ったり

   きたり。

   郵便屋さんの音に きき耳たてて ふうとうの

   においを かぎつけます。

   トラゾウさんが にっこり笑うときは 遠い海へ

   漁に行った まごからの便りが とどいたとき。

   「潮のかおりで すぅぐに わかるんだわぁ」って

   とらぞうさんは じまんします。

 

 

    青いインクのふたをあけると いいにおい。

    このにおいが 大すきなのが 5丁目のタネさん。

    ペンをとりだし 亡くなった夫に 手紙をかきます。

    お天気のことや あたらしくできた ともだちのこと

    最近 いれ歯をつくりかえたことなど かきます。

    かいた手紙は 夫のもとへとどくと 信じている

    のです。

    【だって 夫は 郵便局長 だったんだもの】

 

 

   古ーい 古ーい 家にすんでいる 1丁目のツネさん。

   雨がふったら 雨もり7か所。

   風が吹いたら すきま風。

   だけど ツネさん気にしません。なにがあっても

   ニコ ニコ ニコ。

   「つつましくって すてきでしょ」

   そう言って いつのまにか 住みついた ネコたちと

   のんびり くらしています。

   きょうも雨もり ポト ポト ポトン。

 

 

    かいじゅうの ぬいぐるみをかぶった仕事を

    しているのが 3丁目の音吉さん。

    いまの奥さんが 3人目だって

    わたしたちに ないしょにしているんです。

    ほんとうは みんな知ってるんですけどね。

    ただし まえの奥さんに見つかるのが こわくて

    いまの仕事を えらんだっていうのは

    これは たんなる うわさです。

 

 

    いつも大きな声で「ガハハハ」と笑う

    4丁目のクミさん。

    芝生とまちがえて 緑色のカーペットに 水をまいた

    からって しょんぼりしないで。

    これが2回目だからって 心配することはないわよ。

    だれだって 失敗はあるのだから。

    いつものように「ガハハハ」と 元気いっぱい

    笑ってほしいと みんな思っているのです。

 

 

    3丁目のゲンさん。

    くつのしゅうり屋さんを しています。

    無口なゲンさんが おもわず「ウヒョヒョ」と

    笑いたくなるのは

    最近はじめた トランペットのことを 考えるとき。

    かなづちを トランペットに持ちかえて

    「トゥルットゥ プワー」

    ほら きょうも へんな音が きこえるでしょう。

 

 

    図書館に40年つとめている

    2丁目のテルゾウさん。

    「コホン」とひとつ せきをして もったいつけて

    ヒゲをなではじめると どこからきたのか こども

    たちが あっという間に 集まってきます。

    テルゾウさんの読んでくれる本に みんなワクワク

    するんですって。

    そうして最後に へんてこなクイズをだして みんなを

    こまらせるんですって。

    「カバとペンギン どっちがなきむしか」

    なんてね。

 

 

    5丁目のノブコさんは お風呂ずき。

    まず 4丁目と5丁目のお風呂屋さんを はしごして

    帰ってきたら 家のお風呂に入ります。

    食事のあとにシャワーをあびて ねる前に また

    近くのお風呂やさんに 入ります。

    「わたしって ほんとうに きれい好きなんだからぁ」

    とノブコさん。

    ほんとうは お湯の中にいると むかしのことを

    たくさん 思い出すことが できるって

    ただ それだけのことだって

    この前 そっと おしえてくれたんですけどね。

 

 

    「いそがしい いそがしい」が口ぐせの

    社長の山根さん。

    10日のうちの いちにちは なにもしない日と

    きめました。

    えんがわで 雲のゆくえや アリの行列を のんびり

    ながめるのです。

    そして ふかーく深呼吸をして あついお茶など

    のむのです。

    そのうえ くもったメガネを ていねいにふいたりも

    するのです。

    「やさしい気持ちに なれるように」

 

 

            わたしのことも しょうかいしましょうか。

            名前は中山ハルコ。

            電話をかけるのが なにより大すき。

            もちろん 長電話も たびたび。

            だから

            「5丁目バス通り かどのパン屋さんの向かいに

            ・グランドマザー・という名前のコーヒー屋さんが

            あるのよ。

            あす10時 そこに集まるっていうのは どうかしら」

            なんて みんなに電話。

 

 

 

 

 

    タネさんの口ぐせは こうなんです。

    「ともだちが たくさんいて そのうえ こうして

    おいしいコーヒーがのめるなんて わたしたち 

    ほんとうに ついているとおもうわ」

    もちろん みんな同感なんですけどね。

    「さぁさ コーヒーもういっぱい おかわりしましょうか」

 

 

        おしまい・・・